2025 11/22

R7セミナー中井

ビハーラ臨時セミナー
「能登と共に学ぶ被災地支援  ~“触媒”としての役割とは~」

日時 11月22日(土)14時〜16時
会場 日本赤十字東北看護大学 152講義室

講師 中井 康博 氏
(公益社団法人 シャンティ国際ボランティア会 国内緊急人道支援担当)
※講師プロフィール
平成10年岐阜県高山市生まれ、駒澤大学仏教学部卒業の後、大本山永平寺にて修行、高山市善応寺副住職。
令和3年、シャンティ国際ボランティア会に入職。
令和5年秋田市豪雨災害などでは現地にて長期滞在し支援活動。
昨年の能登半島地震では発生直後に現地入りし、初動対応から避難所運営支援、現地の関係機関や各種団体との調整、復興まちづくりなど、現在まで輪島市門前町での支援活動に従事する。

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昨年元旦に発生した能登半島地震の発生直後に現地入りし、初動対応から避難所運営や炊き出し調整、各種支援活動に尽力されている、公益社団法人シャンティ国際ボランティア会・国内緊急人道支援担当スタッフ・中井康博さんをお招きして、「能登と共に学ぶ被災地支援 ~“触媒”としての役割とは~」と題して1年10ヶ月の長期にわたっての活動についてお話を伺いました。

中井さんは一昨年の秋田市豪雨災害の際にも約3ヶ月ほど秋田市に滞在して活動されたことから、当時現場作業でご一緒された方も当セミナーに参加され、再会を喜ぶ光景も…。
はじめにシャンティ国際ボランティア会の歴史を振り返り、80年代初頭にポルポト政権下で紛争状態となりカンボジア難民が大量発生した際に曹洞宗の僧侶による支援活動が行われ、「曹洞宗東南アジア難民救済会議(JSRC)」が設立、その中心となった有馬実成師らは救援物資や食糧等の支援はもとより、学校や寺院が破壊され教師など知識人が大量虐殺された中で「教育や文化の再興」に主眼を置き、移動図書館活動を開始します。
やがて「曹洞宗ボランティア会」「曹洞宗国際ボランティア会」(SVA)としてタイ・カンボジア・ラオスなどに事務所を構え、教育文化支援活動を精力的に行います。
国内では阪神淡路大震災で緊急救援活動を行い、’99年には社団法人化に伴い現在の団体名に(略称は同じくSVA)。以降も東日本大震災など国内外での自然災害での人道支援や移動図書館活動など、コミュニティ支援を行ってきました。

昨年元旦に最大震度7の能登半島地震が発生、真冬の寒さと雪の中で停電・断水などライフラインも途絶、現地の方々は過酷な避難生活を強いられることとなります。
中井さんは年末年始にインフルエンザとなり病み上がりの状態で1月6日に現地入り、ただでさえ半島特有の地形でアクセスが困難なうえ、道路も各所が崩壊や通行止めとなる中、当初は七尾市で物資支援を行います。
やがて「總持寺祖院」がある輪島市より支援要請、同市門前地区に活動拠点を定めて炊き出しや避難所運営支援に当たられます。
自治体職員の多くも被災し、避難所運営も困難を極める中での避難環境改善、また多くの外部支援者が炊き出しを申し出るも避難所ごとの食数とのミスマッチも初期には度々だったようで、その調整役も担うこととなります。心待ちにしていた炊き出し団体が、雪のため現地に到着できずに住民さんはがっかりということも…。
ちなみに、我々が秋田から門前に向かい「きりたんぽ鍋」炊き出しを行ったのもこの頃でした。
断水が続く中、足湯・サロン活動も並行して行うほか孤立集落も多々あり、七浦(しつら)地区や剱地(つるぎぢ)地区対象の入浴支援も大いに喜ばれたようです。
土砂崩れも多い道のりでワゴン車に住民を乗せて自衛隊が設置した入浴施設へ送迎、中には「38日ぶりに風呂に入れた!」という高齢者も。
その他、ボランティアを受け入れ家屋の片付け、休業中だった宿泊施設のキッチンを活用し、地震で職を失った現地の方々(主に飲食業)を雇用してセントラルキッチン方式の配食サービスも展開、3月には門前で毎年行われている「雪割草まつり」のサポート、厳しい避難生活が続く中で住民さんが様々なアトラクションを楽しみ、わずかな時間でも明るくなれるひとときを過ごされたようです。

7月にはSVAの“お家芸”でもある移動図書館活動「ほんねんてブックカフェ」をおためし運行、避難所運営に携わっていた男性が元々は輪島市の図書館職員さんで、被災した図書館を再開させる機を窺っていたとのこと。「ほんねんて」とは能登の方言で相づちの意味や“本”にひっかけたネーミングです。
ちょうど仮設住宅への引っ越しが始まり、同活動では「本を読む」ことを通じて住民さん同士の交流や、避難生活での課題を掘り起こし解決につなげる場でもあります。仮設住宅の不具合なども話題となって行政につないだこともあったとのこと。
仮設住宅での生活が落ち着き始めた矢先の昨年9月、今度は「奥能登豪雨災害」が発生、各地で浸水被害が多発し、町のあちこちが泥まみれ、流木が散乱…。多くの仮設住宅でも床上浸水が見られ、またも避難所での生活に逆戻りし、セントラルキッチンの再開と弁当配りの日々となりました。
地震から立ち直りつつあった人々の暮らしが、豪雨によって「心が折れた」と多くの方々が感じる甚大な被害に、移動図書館活動も一時休止せざるを得ませんでしたが、仮設住宅や公民館での「ほんねんてブックカフェ」も徐々に活動を本格運行しています。
本を通じたエピソードとしては、ご主人を亡くされた方が仏事に関する本を手に取られたり、料理やDIYの本を参考にして生活に役立てたり、気持ちの整理をつける心理系の本などを読んで「楽になった」と話す方がいたりと、地震や豪雨からの生活再建や精神的な支えに、本は大きな役割を果たしています。
アジアの戦乱地帯で、国内各地の被災地で、本を読むことは子どもから高齢者まで「心の栄養」や「生きる力」を育むことでもあると強く意識しながら活動してきたSVA長年の理念が、能登でも住民さんに浸透しているようです。
また住民同士の交流の場、困りごと相談の場としても、福祉関係者や就労支援、ボランティアにつなぐといったケースもあり、3.11後の東北など過去の災害被災地での経験も生かしながら活動を継続しています。

現在の輪島市門前では、地震で倒壊した建物の「公費解体」が進んだものの空き地が増え、草も伸びて寂しい光景が広がったとの声もありますが、公民館活動が再開され各種催しが行われたり(元々公民館活動が盛んな地域)、地域の祭りが盛大に行われたり、また農業や各種産業が少しずつですが再起し始めたりと活気を見せつつあります。
と同時に、加速する人口流出や少子高齢化、後回しになる文化的活動、世間の震災への関心の薄れ、支援者が離れた後のまちの経済、今後の住処、コミュニティ再建、なりわい等々、課題は山積しています。その中で今後も図書館活動を中心とした復興支援を続けていく上で、演題の中にもある“触媒”という考え方にも触れています。
触媒とは化学反応を促進させるような物質のことをいいますが、SVA創設者の有馬実成師が「ボランティア触媒論」を提唱され、SVAでは活動理念として長く語られています。
ボランティア活動が単なる奉仕にとどまらず、他の人や社会に変化をもたらす“触媒”として機能することを意味します。支援者が主人公となるのではなく、被災した人々が一時は沈滞していても本来持っている力を活性化させて、被災者自らが主体となって復興に向かう姿が望ましいという考え方です。
ボランティア活動はそのための“触媒”となって、住民に寄り添う姿勢が重要と話されました。仏教の「智慧」と「慈悲」の実践であるSVAの支援活動を、私どもも微力ながら今後も支えていきたいとあらためて思いました。

続いて、発災初期から何度も秋田から能登に足を運び活動を共にした、前・全国曹洞宗青年会副会長・高柳龍哉さん(秋田市 勝平寺副住職)を交えて、門前での活動を更に深掘りしていく対談の時間としました。
高柳さんから見て、現地の住民さんに溶け込み、早くから信頼関係を築いていた姿に感銘を受けたとのこと、行政や社協、住民組織、学校、各種団体との複雑な連絡調整をこなしていた中井さんに敬服しながらの活動だったようです。
また参加者からも質疑応答や意見交換も活発に行われ、有意義な機会となりました。
最後に日赤看護大の及川真一先生から、一昨年の秋田市豪雨災害時に「とにかく住民さんの話を、膝をついてじっくり聴いていた姿が印象的だった。あの時一緒に活動した、看護師や保健師を目指す学生達にも参考になったはず」とのコメントがありました。
また会場では門前地区で障がい者支援を行っているNPO「夢かぼちゃ」さんや門前地区商店街の復興支援グッズを紹介する物販コーナーもご用意し、お買い上げいただく方々も多く見られました。

度々起きてはほしくないことですが、今後秋田での災害対応力の向上にも参考となる、長きに渡る能登での活動での貴重な経験をお話しいただき、誠にありがとうございました!
また会場提供や告知などでご配慮いただいた日赤東北看護大学の及川真一先生はじめ職員の皆様に、深く感謝申し上げます。

※シャンティ国際ボランティア会の能登半島地震での活動についてはこちらもご参照ください

https://sva.or.jp/activitynews/202510notoreport/